文房具特許の世界

文房具が好きで、特許を手掛かりにその背景を妄想することによって文房具をもっともっと好きになるために、ブログはじめました。といっても、文房具特許についてはド素人で、皆さんと一緒に少しずつ学んでいければと思っています。文房具カフェ会員No.01845 連絡先:bunseka.akiran@マークgmail.com

Item 18: カルカット: 特許を探してみた

ではいつものようにJ-PlatPatで検索していきましょう。開発秘話について語っていた増山正明さんで検索します。出願人=コクヨ、発明者=増山正明 で特許・実案検索したところ、ヒット件数は45件。ざっと確認したところ、こちらの2件が関連しそうです。テープカッターは、テープディスペンサーとも言うんですね。

 

特開2015-098378(出願日:2013年11月19日)テープディスペンサー

特開2015-098379(出願日:2013年11月19日)テープディスペンサー

 

では、順にポイントを見ていきたいと思います。特開2015-098378の出願時の権利範囲はこちら。

 

【請求項1】
テープが環状に巻回されてなるリフィルを保持するためのリールを有してなるテープディスペンサーであって、
前記リールが、前記リフィルの内側に挿入される芯と、この芯の外縁に設けられ前記リフィルの巾寸法以上の幅寸法を有する幅広縁、この幅広縁から前記リフィルの巾寸法と同じか或いは当該巾寸法よりも狭い巾寸法を有する幅狭縁、及び前記幅広縁から前記巾狭縁までを接続する接続部を有する位置決め部とを有していることを特徴とするテープディスペンサー。

 

ん? これはテープのリフィルを保持するリールが特徴のようですね。実施例によると、近年では、テープ自体の巾寸法を使用者が用途や趣向に合わせて任意に選択できるよう、同じ素材のものであっても、巾寸法のみを異ならせた複数種類のものが製造されることが多いため、テープディスペンサーにおいても、多様な巾寸法に設定されたリフィルの何れを用いても違和感なく使用し得るように対応していくことが求められている、とのこと。

 

このような課題を解決するため、上記のような構成にすることにより、芯の巾寸法ではなく、位置決め部の巾狭縁から接続部を介して幅広縁に至る何れかの箇所にリフィルの縁を合わせればリフィルを巾方向に位置決めすることができ、その結果、芯自体の巾寸法に拘わらずリフィルを容易且つ確実に巾方向の位置決めを行うことができるとのこと。リール構造についてはこちらのブログで紹介されていますのでご確認ください。

コクヨS&T:カルカット: きたきつねの文房具日記

 

次に、特開2015-098379の権利範囲を見ていきましよう。

 

【請求項1】
テープが環状に巻回されてなるリフィルを保持するためのリールと、このリールを回転可能に保持する本体と、この本体に着脱可能に設けられ前記テープを切断する刃部とを具備してなるテープディスペンサーであって、
前記刃部が、前記テープを切断する切断縁を有した切断刃と、この切断刃を着脱可能に保持するカバーと、前記切断刃を前記カバーに対して所定の位置及び方向でのみ装着させ得る向き決め機構とを具備することを特徴とするテープディスペンサー。

 

上記の刃部というのは、切断刃だけでなくて、その切断刃を着脱可能に保持するカバーと、切断刃をカバーに対して装着する位置、向きを決める機構の3つの構成からなっている訳です。そして、その刃部が本体に対して着脱可能に設けられています。

 

ですので、切断刃の交換は、本体に取り付けた刃部を外した状態で行う事が出来る事に加え、向き決め機構により所定の向きに間違いなく切断刃を取り付けることができるので、切断刃の容易且つ正確な交換が可能となる、という格別の効果がある訳ですね。

この特開2015-098379は、プレスリリースのカンタン替刃交換式を保護する出願するかと思われます。

テープカッター<カルカット>を発売|プレスリリース|コクヨ

 

J-PlatPatで特許・実案を検索してきましたが、未だに、カルカット最大の特徴である特殊加工刃に関する出願は見つかっていません。本日はもう少し拘ってみようと思います。

 

日本に出願せず、海外にのみ出願している可能性もありますので、欧州特許庁の検索サービスで外国出願があるか検索してみることにします。

Espacenet - 高度の検索

出願人=kokuyo、発明者=masuyama で検索したところ、ヒット件数は45件。順に上からみていったところ、中国の出願がありました~

CN104781054(優先日:2012年11月07日)Cutting blade and tape dispenser  

本中国出願は、日本へのPCT出願(WO2014073552)が基礎になっているようです。(←PCT出願が基礎ではなく、日本出願が基礎になっていましたので訂正のため追記しておきます。失礼しました(As of 2016/8/19))PCT出願の出願時の権利範囲はこちら。

 

【請求項1】
巻回された状態から繰り出されたテープに挿入するための板体状をなすものであり、前記板体の端面側から緊張した状態で繰り出された前記テープに挿入することにより前記テープを所望の長さに切断するための切断刃であって、
前記繰り出されたテープの先端側において当該先端側の端縁をテープの面方向に直交する方向に向けて立ち上がらせて設けた立ち上がり部と、
この立ち上がり部から前記テープの基端側へ隣接して設けられ前記端縁が前記テープを切断するときに前記テープの表面に当接し得る当接部とを具備することを特徴とする切断刃。

 

請求項1の文言を図にしてみました。(立ち上がり部の0.08mmは実施例での数字を入れました)

f:id:bunseka_akiran:20160813012001p:plain

もともとは、特殊加工刃は刃の山・谷すべてが「刃」になっているので、軽い力でテープを切ることができる、というのがポイントだと思っていたのですが、この出願を見る限り、少し趣が違うようです。

これまでは、切断刃の先端の形状を適宜形成することで、小さい操作力でテープを切断し得ると共に、正面視で鋭利な角を設けないように構成したので誤って切断刃に手が触れても手を傷つけることが回避されるようになっていました。しかしながら、テープの素材が様々となり必要以上に操作力が必要な場合も出てきた。

ということで、今回の発明です。今回の切断刃が画期的なところは敢えて鋭利な角である端縁をユーザの手に触れるところにもってきてしまっているところです。しかしながら、仮にユーザの手指が端縁に触れても、その0.08mm下のところに当接部があるので手指はその当接部に当接することになります。通常人の手指の表皮の厚みはおよそ0.2mm程度とされているので、手指の安全性が担保されている訳です。すなわち、切断刃の切れ味と、手指の安全性という、両立し得ないものを、両立させてしまった大発明な訳です。

 

本件、どうしてJ-PlatPatで検索できなかったというと、日本出願を基礎としてPCT出願し、その後に、日本には移行しなかったからではないかと思われます(←別サイトで再調査したところ、日本への移行を確認しました。大変失礼いたしました。(As of 2016/08/19)

JP2013079975 CUTTING BLADE AND TAPE DISPENSER

)。PCT出願を行っていたということは、当初は2~3カ国への移行の予定だったと推定されます。こちらに掲載されている平成26年12月期のアニュアルレポートでも、Stationery Businessの市場として、日本、インド、中国、ベトナムを重視されているようですので「カルカット」の海外展開を考慮されてのPCT出願だったのでしょう。

www.kokuyo.co.jp

PCT出願は、出願後、サーチレポートという形で一次調査結果を受け取るのですが、その中で先行技術がいくつか引用されていたようですので、この先行技術の内容を踏まえ、費用対効果の観点から、移行国を中国のみにしたのではないかと予想されます。あくまでも妄想ですが。(←こちらも、「中国のみ」でなく、「日本のみ」に訂正します。上記の中国出願はPCT出願からの移行でなく、日本出願を基礎とした中国への直接出願でした。失礼しました。(As of 2016/08/19)

 

今回は、初の外国出願まで行ってしまいましたが、そろそろ調査を完了したいと思います。

 

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