文房具特許の世界

文房具が好きで、特許を手掛かりにその背景を妄想することによって文房具をもっともっと好きになるために、ブログはじめました。といっても、文房具特許についてはド素人で、皆さんと一緒に少しずつ学んでいければと思っています。文房具カフェ会員No.01845 連絡先:bunseka.akiran@マークgmail.com

Item 48: ビック・クリスタル: 特許を探してみた

それでは、ボールペンの原理を発明したジョン=J.ルードを手掛かりに、特許を特定していきたいと思います。ググってみたところ、Wikipediaにもページがありましたね。

John J. Loud - Wikipedia

 

Google Patentsを利用して、"John J. Loud" ball penで検索したところ、ヒット件数は2件。あ、ありましたよ。出願年は、1884年でなく1888年ですね。図面も引用しておきます。

patents.google.com

 

US392046(出願日:1888年2月4日) PEN

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US392046-0.png

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US392046-0.png

 

▼請求項はこちら。「実質的に記述されているような、球状のマーキングポイントを有するペン。」 このころの請求項は”as described”という文言を利用して、明細書全体で権利を主張する表現をとっていたようですね。複数の小球Kと大球Lで構成されています。

 

f:id:bunseka_akiran:20161014204523p:plain

 

続いて、ラズロ・ビロも調査していきましょう。

▼ラズロ・ビロもWikipediaのページがありました。ハンガリーの発明家とのこと。

László Bíró - Wikipedia

ビーロー・ラースロー - Wikipedia

 

▼ビロは、1943年に追加特許申請、1946年に「毛細管現象」に関する特許取得という情報がありましたが、「毛細管現象」に関する記述がある優先日が1943年のものが4件ありましたので、引用しておきます。

 

US2390636(優先日:1943年4月17日)WRITING INSTRUMENT

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US2390636-0.png

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US2390636-0.png

 

US2413904(優先日:1943年4月17日)WRITING INSTRUMENT

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US2413904-0.png

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US2413904-0.png

 

US2397229(優先日:1943年5月19日)WRITING INSTRUMENT

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US2397229-0.png

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US2397229-0.png

 

US2416896(優先日:1943年11月6日)WRITING INSTRUMENT

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US2416896-0.png

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/US2416896-0.png

 

最後に、いよいよマルセル・ビックの調査に入りましょう。

▼同様にWikipediaのページがありました。

Marcel Bich - Wikipedia

 

Wikiの記述によると、1953年に、ビックは、ビロの特許をUS $2 millionで買収したようですね。

In 1953, Marcel Bich bought the patent for the ballpoint pen [2] for US $2 million from Hungarian László Bíró who had been producing such pens since 1943 in Argentina.

 

▼1953年当時、1ドル=360円ですから、$2 million=7億2000万円。

http://yasuma-guitar.com/ensouba.html

 

▼1953年頃の都市勤労者世帯の月平均実収入は1952年の20,822円と1954年の28,283円を足して2で割ることにより換算すると、約24,553円

戦後昭和史 - サラリーマンの月収と支出

 

▼2016年4~6月における、総世帯の、勤労者世帯の1世帯当たりの1か月平均の実収入は、480,671円 

統計局ホームページ/家計調査報告(家計収支編)―平成28年(2016年)4〜6月期平均速報―

 

とすると、1953年当時の円の価値は現在に換算すると約19.6倍(480,671 / 24,553 = 約19.6)となるので、7億2000万円 × 19.6=約141億円 となりますね。

 

ビックは、ビロの特許にそれほどの価値を感じていたんですね。先見の明あり。

 

▼ビックは、1965年にデザイン特許を出願していましたので、参考までに紹介しておきます。このデザインにマッチする当時の商品を特定することはできませんでした。

 

USD204527(優先日:1965年4月7日)BALL POINT PEN

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/USD204527.png

https://patentimages.storage.googleapis.com/pages/USD204527.png

 

 

ジョン=J.ルード、ラズロ・ビロの志を、特許というカタチでマルセル・ビックが受け継ぎ、それが「ビック・クリスタル」「ビック・オレンジ」の大ヒットに繋がっていったこと。それが、現在のビック社の礎・・・。

 

ボールペン特許に翻弄された男たちの壮大な物語も、この辺りで、そろそろ終わりにしたいと思います。