文房具特許の世界

文房具が好きで、特許を手掛かりにその背景を妄想することによって文房具をもっともっと好きになるために、ブログはじめました。といっても、文房具特許についてはド素人で、皆さんと一緒に少しずつ学んでいければと思っています。文房具カフェ会員No.01845 連絡先:bunseka.akiran@マークgmail.com

Item 23: デルガード: 特許を探してみた

では早速、J-PlatPatで検索していきます。出願人=ゼブラ、発明者=月岡之博 で特許・実用新案を検索したところ、ヒット件数は43件。上から順に確認していったところ、ありました! おそらくこちらの2件が関連すると思われます。

 

特開2016-36949(出願日:2014.8.6) 鉛芯繰出し機構及びシャープペンシル

特開2016-36950(出願日:2014.8.6) 筆記具

 

プレスリリースで発表されたのは2014年10月7日ですから、出願日2014年8月6日とも符合しますね。特開2016-36949から順に、出願時の権利範囲をみていきましょう。

 

【請求項1】
挟持した鉛芯を前進して解放するチャックと、該チャックに挿通される鉛芯を該チャックから前方へ離れた位置で保持する芯ブレーカとを備え、前記チャックの挟持と解放及び進退運動により前記芯ブレーカの前方へ鉛芯を繰出すようにした鉛芯繰出し機構において、
前記チャックと前記芯ブレーカとの間にて鉛芯の外周を覆った状態で進退するスライド筒と、このスライド筒を前記芯ブレーカに相対し後方へ付勢する付勢部材とを設けることで、前記チャックと前記スライド筒が一体的に進退するようにし、
前記スライド筒の外周面に、軸方向へ貫通する芯粉逃がし溝を設けたことを特徴とする鉛芯繰出し機構。

 

調査ポイントで挙げている、

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2: 芯詰まり防止機構

軸内部にシャープ芯を誘導する部品を取り付けたことで、短い芯でもずれて詰まることがないとのこと。

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が、上述の青字部分だと思われます。軸内部にシャープ芯を誘導する部品が、スライド筒に対応し、スライド筒が、鉛芯の外周を覆った状態で進退することで、軸内部で芯が折れることを防ぎ、芯が詰まることを防止するものと思われます。

 

さらに、前記スライド筒の外周面に、軸方向へ貫通する芯粉逃がし溝を設けたことを限定していますね。芯粉逃がし溝の作用について、出願明細書の関連する部分を引用します。

 

「チャック32b及びスライド筒32eの進退が繰り返されると、チャック32b及びスライド筒32eと鉛芯31との摺接により若干の芯粉が発生する場合があるが、この芯粉は、スライド筒32eの外周部に溜まるようなことなく、スライド筒32e外周の芯粉逃がし溝32e2によって軸方向の前方又は後方へ逃がされる。よって、前記芯粉が、スライド筒32eの外周部で固着して、スライド筒32eの進退動作や、該スライド筒32eを押動するチャック32bの進退動作等に支障をきたすようなことを防ぐことができる。」

 

なるほど。芯詰まり防止のために設けたスライド筒の外周部に芯粉が溜まってしまうという課題を解消するために、スライド筒外周面に芯粉逃がし溝を形成することは必須の特徴なのでしょうね。

 

特開2016-36950の出願時の権利範囲も見てみましょう。

 

【請求項1】
軸筒と、該軸筒の前側開口部に挿通されるとともに該軸筒の前端から前方へ突出するホルダーと、該ホルダーの内周面に接して該ホルダーに挿通されるとともに該ホルダーの前端から前方へ突出するように支持された筆記芯とを備え、前記ホルダーを前記軸筒に相対し進退させるようにした筆記具において、
後退した際の前記ホルダーを受けて弾性変形する緩衝材を設けたこを特徴とする筆記具。

 

ん? もう一つの調査ポイントとして挙げている芯折れ防止機構とは違うようですね。

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1:芯折れ防止機構

筆記中のあらゆる角度の筆圧でも折れないように芯を守る新機構搭載。紙面に対し、垂直に強い筆圧が加わると、軸に内蔵されたスプリングが芯を上方向に逃し折れを防ぐ第1の機構と、斜めに強い筆圧が加わると、先端の金属部品が自動で出てきて芯を包み込みガードする第2の機構を搭載。金属部品が自動で出てくるってどういうことでしょう? 気になりますね。

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本出願明細書の中の背景技術の説明のところで、

「筆圧が大きすぎる場合に、前記ホルダーを前進させて該ホルダーによって前記筆記芯を保護し、通常の筆圧に戻った場合に前記ホルダーを後退させるような構造が提案される」と言及していますので、上記の「紙面に対し、垂直に強い筆圧が加わると、軸に内蔵されたスプリングが芯を上方向に逃し折れを防ぐ第1の機構」は既に類似の機構が先行技術として存在していたのかもしれません。

 

さらに、背景技術にて、「このようにした構造では、後退する前記ホルダーが軸筒側の部材に当接して、耳障りな作動音を発生してしまうおそれがある。」という課題を設定しています。

 

この課題を解消する構成が、請求項1の中の、「後退した際の前記ホルダーを受けて弾性変形する緩衝材」のようですね。

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左図が、垂直に強い筆圧が加わっている状態で、軸に内蔵されたスプリングが芯を上方向に逃し折れを防ぐ第1の機構が働いている状態です。右図が、通常の筆圧に戻った状態で、ホルダーが後退するときに、ホルダーが軸筒側の部材に当接して、耳障りな作動音を発生してしまわないように、緩衝材が設けられています。作動音防止がメインの課題とは意外ですね。

 

芯折れ防止機構に関連する請求項はおそらくこちらだと思われます。

 

【請求項5】
前記筆記芯が軸筒に支持され、
軸筒と前記ホルダーの間には、前記ホルダーに加わる軸筒径外方向の力により前記ホルダーを軸筒及び前記筆記芯に相対し前進させる運動方向変換機構が具備されていることを特徴とする請求項1乃至4何れか1項記載の筆記具。

 

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まさに、「斜めに強い筆圧が加わると、先端の金属部品が自動で出てきて芯を包み込みガードする第2の機構」にあたる部分ですね。軸筒径外方向の力が、「斜めに強い筆圧」に対応し、金属部品がホルダにあたります。ホルダの先端側に設けられる傾斜部分を、運動方向変換機構と呼んでいる訳ですね。斜めに力を加えるとピョコっと出てくるホルダには、感動すら覚えますよ。

 

今回の調査でも、芯粉逃がし溝や、作動音を防止する緩衝材の存在など、プレスリリースなどではあまり取り上げられていないフィーチャの存在を知ることができ、文房具の奥深さを改めて再認識いたしました。

 

以上で、今回の調査を終了したいと思います。